放射線の人体への影響は、「確定的影響」と「確率的影響」に分けられます。
「確定的影響」は、一定量以上の放射線を浴びると必ず現れる影響で、急性障害や不妊、白内障などが含まれ、これらの影響には「しきい値」があり、日常生活で受ける程度の放射線量では心配する必要はありません。
「確率的影響」は、放射線量が増えるほど確率が高くなる影響で、主にがんや白血病のリスク上昇が挙げられます。
• 100 mSv(ミリシーベルト)以上で、がんで死亡するリスクが0.5%上昇するとされています。
• 100 mSv未満については、統計的に影響が確認されていません。
人体には放射線による損傷を修復する機能があるため、少量の放射線であればほとんど修復されます。
自然放射線の存在
私たちは日常的に自然放射線に囲まれて生活しています。
• 宇宙から降り注ぐ放射線
• 大地に含まれる放射性物質からの放射線
• 飲食物に含まれる放射性物質からの放射線
• 大気中のラドンなどからの放射線
日本人が1年間に受ける自然放射線量は、平均して約2.1 mSvです。
地域による差
放射線量は地域によって異なります。
• 西日本は東日本より放射線量が高い傾向にあり、これは花崗岩(御影石)に含まれる放射性物質の影響です
•関西地方は関東地方より放射線量が2~3割高くなっています
高度による差
高度が上がるほど宇宙線の影響が大きくなります。
• 航空機での、東京 – ニューヨーク往復で、0.08~0.11 mSvの放射線を受けます
• 地上から10000m以上の高度では、地上の約150倍の宇宙線が降り注いでいます
日常生活では、医療分野で使用される人工放射線の影響もあります
外部照射で使用される放射線
1.X線
一般的な放射線治療や、画像診断(レントゲン、CT)に広く使用されます
2.電子線
表在性の、がんの治療などに用いられます
3.γ線
コバルト60などから放出され、がん治療や医療器具の滅菌に使用されます
4.粒子線
• 陽子線:がん治療に使用されます
• 重粒子線:主に炭素イオンを用いたがん治療に使用されます
• 中性子線:ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)などに使用されます
内部照射で使用される放射線
1.X線、β線、γ線
密封小線源治療で使用され、組織内照射や腔内照射に用いられます
2.放射性同位元素(RI)から放出される放射線
α(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線が含まれ、核医学検査や治療に使用されます
診断で使用される放射線
1.X線
レントゲン撮影やCT検査に広く使用されます
2.γ線
PET(Positron Emission Tomography)検査などの核医学検査で使用されます
医療分野で使用される人工放射線量は、検査や治療の種類によって大きく異なります
診断用X線検査
• 胸部X線撮影
約0.06 mSv/回
• 腹部X線撮影
約1.0 mSv/回
• 胃のX線検査(バリウム検査)
約3~5 mSv/回
• CT撮影
頭部CT:約2.4~12.9 mSv/回
胸部CT:約5~30 mSv/回
腹部CT:約5~30 mSv/回
核医学検査
• PET検査
約2~10 mSv/回
• その他の核医学検査
約0.5~15 mSv/回(検査の種類による)
放射線治療
放射線治療では、局所的に高線量の放射線を照射します
1回の治療で約2 Gy(グレイ)
通常25回程度の治療を行うため、合計で約50 Gyの局所照射を行います
これは、胸部X線撮影の約10,000回分に相当する局所的な高線量照射です
CT検査の普及により、日本の放射線の影響の割合が比較的高くなっています。
国際原子力機関(IAEA)や日本診療放射線技師会は、各検査の診断参考レベルを設定し、不必要な放射線検査・治療を避けるよう推奨しています。
患者と医療従事者の双方が放射線量を意識し、適切な利用を心がけることが重要です。