『9 Months That Count Forever』──妊娠中の栄養と赤ちゃんの発達・将来の健康

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DNAの「どの遺伝子がオンになり、どの遺伝子がオフになるか」いわゆるエピジェネティックな部分は、妊娠中の母親の食事によって左右されるという。

赤ちゃんを「種」、母親を「土壌」にたとえるなら、同じ種でも砂利だらけの場所に植えるか、良い土に植えるかで育ち方が変わる。

DNAという設計図は同じでも、母体の栄養環境によってその発現の仕方は変わってくる、という考え方で、妊娠中の食事は、いわば赤ちゃんに「これからどんな世界に生まれるか」を伝えるメッセージのようなものだと言える。

こうした視点を打ち出しているのが、フランス出身の生化学者ジェシー・インチョスペ。

キングス・カレッジ・ロンドンで数学の学士号、ジョージタウン大学で生化学の修士号を取得した彼女は、血糖値マネジメントをテーマにした『Glucose Revolution』と『The Glucose Goddess Method』で知られるようになった。

SNSコミュニティ「Glucose Goddess」の創設者でもあるインチョスペ氏は、最先端の科学論文を、誰でも日常生活で実践できる「ハック」に翻訳して伝える活動を続けている。

その延長として2026年3月にSimon Elementから刊行されたのが、新著『9 Months That Count Forever』。

本書では、「妊娠中は今まで通り食べていれば、赤ちゃんに必要なものは自然と届く」という考え方から一歩踏み込み、母親の栄養摂取や代謝状態が、胎児の発達や将来の健康とどのように関係するのかを、科学的な研究をもとに解説している。

自身の妊娠をきっかけに、生化学者として「自分の体の中で何が起きているのか」を知りたいと考えたインチョスペ氏は、妊娠期の栄養に関する研究を読み込んだ。

そして本書で特に注目しているのが、「コリン」「DHA」「タンパク質」「グルコース」の4つ。

栄養素・成分主な特徴妊娠期との関わり
コリン細胞膜の構成や神経伝達などに関わる胎児の脳・神経系の発達に関係
DHAオメガ3脂肪酸の一種脳や網膜などの構成成分として重要
タンパク質筋肉・臓器など身体をつくる材料胎児の成長や母体の組織維持に必要
グルコース(ブドウ糖)身体を動かす主要なエネルギー源母体の血糖値を通じて胎児の代謝環境とも関係

インチョスペが注意を向けているのがグルコース、つまりブドウ糖だ。

本書では、多くの妊婦がコリン、DHA、タンパク質を十分に摂れていない一方で、グルコースについては摂りすぎになりやすいという問題を取り上げている。

ここで重要になるのが、妊娠中の血糖値で、母体の血糖値が高い状態が続くと、母体だけでなく胎児の成長や代謝にも影響する可能性がある。

特に妊娠糖尿病や妊娠中の高血糖と、出生後の肥満や2型糖尿病などの代謝リスクとの関連については、これまでにも研究が行われてきた。

こうした研究の背景にあるのが、「DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)」、日本語では「健康と病気の発達的起源」と呼ばれる研究分野。

DOHaDは、胎児期や乳幼児期など、人生の早い段階で受けた栄養や環境などが、その後の健康や病気のリスクと関連するという考え方で、生まれてからの生活習慣だけではなく、人生のかなり早い段階にまで目を向けて健康を考える研究領域。

『9 Months That Count Forever』は、このDOHaDの研究分野に関する450本以上の科学論文を土台としているという。

インチョスペ氏は、妊娠中の栄養状態や血糖値が胎児の発達にどのように関係するのかを、遺伝子発現や代謝などの観点から説明していて、「母体の血糖値スパイクが胎児の糖尿病関連遺伝子をオンにする」と主張しています。

本書で特に注目されるのが、母体の血糖値と胎児の代謝との関係。

妊娠糖尿病や高血糖状態では、胎児の膵臓β細胞の増殖やインスリン抵抗性、脂肪細胞の分化などに関わる仕組みに変化が生じる可能性が研究されていて、出生後の肥満や2型糖尿病などのリスクとの関連も報告されている。

ただし、ここは「妊娠中に血糖値が上がったら、子どもが将来必ず病気になる」という単純な話ではない。

将来の健康には、遺伝的要因だけでなく、生まれた後の食事や運動、生活環境など、さまざまな要因が関係するからだ。

そのため本書のテーマを、「妊娠中は完璧な食事をしなければならない」という話として捉えるよりも、胎児が成長する環境として、母体の栄養状態や代謝状態にも目を向けるという視点として捉えると分かりやすい。

妊娠中の栄養というと、葉酸や鉄、カルシウムなどを思い浮かべる人も多い。

しかし、インチョスペ氏が今回焦点を当てるのは、それだけではない。

コリン、DHA、タンパク質、そしてグルコースという4つの要素から、妊娠中の食事を改めて考えようとしている。

約40週にわたる妊娠期間を、単に「赤ちゃんがお腹の中で成長する時間」と見るのではなく、その後の人生にもつながる重要な発達期間として捉え、母体の栄養や代謝が、胎児の発達とどのようにつながっているのか――。

『9 Months That Count Forever』は、そんな視点から妊娠期を見つめ直す一冊といえるだろう。

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